2021年10月23日土曜日

 ねこの麦(むぎ)


「ねぇママ、わたし猫飼いたい」

すずちゃんと言う女の子はお母さんに言いました。


「可愛いけど、飼うのはたいへんなのよ。家が傷だらけになっちゃうし、うんちは臭いし、それに、死んだ時悲しいのよ。私たちより絶対早く死ぬ生き物を飼おうなんてどうして思うのかしら?」


「先に死ぬものを飼ってはいけないの?」

すずは不思議に想いました。


あるとき、学校の帰り道、子猫が女の子を見ていました。

女の子はとっさに感じました。

「このこは私を必要としているのかな」


女の子は子猫を連れて帰り、ママに怒られたけど飼うことにしました。

猫の名前は「麦(むぎ)」。


すずは9歳。麦もまだ甘えん坊。

すずはきちんと猫のお世話をしました。

二人は楽しい楽しい時間を過ごしました。


麦が1歳になったとき、すずの年齢を追い越しました。

二人は違う時間を生きています。

麦は大人になって、太ってドテーンとしていたり、なんでも知っているような目をするようになりました。それでも、すずにとって麦は麦。ずーっと愛は変わりませんでした。


麦が死期を迎えました。

すずが学校からそろそろ帰る頃、ママから電話がありました。

「麦ちゃん、そろそろ死んじゃうよ! すずを待っているよ。早く帰ってきて」


すずが家に着いて麦を見たとき、麦は立ち上がって泣きました。にゃーんにゃーんと泣きました。

麦はすずの目をじーっと見ました。麦の目は黒目がどんどん大きくなり、完全に丸くなりました。そして、麦ちゃんは死にました。


すずは、あの日の麦の目を忘れません。

私のことを、待って、待って、待ちくたびれていたんだね。

やっと安心して消えることができたんだね。


ペットは先に死ぬから嫌だという人へ。

看取るということは人生で最も大切な経験のひとつです。

愛を教えてくれます。生きることの意味を考えさせてくれます。

どうか、悲しむだけでなく、その子の生き様を覚えていてあげてください。



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